ITOI
作品解説
群馬県太田市
太田市立藪塚本町
小学校第1舎
2010年3月
代表作の2つ目です。
内陸部にあるのに、海辺のリゾート地のように明るい雰囲気の小学校です。
明るく開放感にあふれる校舎で学ぶ子供たちは、元気いっぱいに育っています。
この校舎を見た人は、映画「二十四の瞳」を思い出すかもしれません。瀬戸内海の小豆島を舞台にした物語です。海辺の小さな木造校舎でのびのびと学ぶ12人の子供たちの明るく純粋な笑顔に宿る澄んだ瞳がタイトルになっている「二十四の瞳」は、建築家が学校建築を設計する際には、自然に思い出すモチーフの一つです。
【石州瓦】
まず目を引くのは、明るいオレンジ色の瓦屋根です。日本三大瓦といわれる島根県産の石州瓦は、独特の赤褐色が特徴です。色合いの美しさだけでなく、耐久性があります。美と堅牢性を兼ね備えた素晴らしい瓦は、日本の文化と歴史の結晶です。
雪が多い山陰地方の景色を明るくする石州瓦は、正反対の気候ともいえる群馬県の乾燥してからりと晴れあがった青空では、いっそう明るく鮮やかに見えます。
不思議なことに石州瓦を使った屋根は、鮮やかで明るい色合いながら落ち着きがあり、見る人の心を癒します。あたたかく優しい色合いは、建物全体に品格と安心感をもたらしています。
当事務所は、石州瓦の産地までわざわざ足を運んであつらえたほどのこだわりがあります。この校舎には濃い赤、黄色、茶色などを組み合わせた「まだら(混合葺)」の屋根を採用しました。
群馬県の乾いて澄んだ青空によく映えるオレンジ色の石州瓦は、人にやさしい建築を目指す当事務所のシンボル的な存在です。親しみやすさを表現するために、学校、行政センター、福祉施設などに多く採用してきました。
太田市内でこの美しい屋根が見えたら、当事務所の作品かもしれません。
【作品の背景】
戦後の高度成長期、昔ながらの木造建築は、メンテナンスの手間がいとわれました。デザインも前時代的と敬遠され、シンプルでモダン、合理的で耐久性のあるRC造こそが正義でした。
時代の空気が反映され、校舎も木造からRC造へと建て替えられていきました。
緑豊かな農村はどんどん開発され、村はまちになり、あらゆる分野で工業化が進みました。日本全国で多くの公共建築が建設されましたが、どこも同じような表情でした。高い技術と耐震性を誇り、立派ではあるもののどこか冷たく無機質な印象を与えるRC造の公共建築は、わたしたち日本人の心にも影響を与えていたように思います。やがて、受験戦争や詰め込み教育、管理教育による子供の心の荒廃が危惧される時代が訪れたのです。
オレンジ色の屋根を冠するうつくしく明るい校舎には、子供たちの心身を癒し、情操をはぐくむためには、RCでありながら温かみのある建物が求められるようになっていた時代の空気が反映されています。
【サステナブル】
RC造に屋根をかけた理由は、断熱性能の向上とメンテナンス性の確保もあります。瓦屋根を使用することで夏は日射熱を遮り、冬は暖房の熱が保たれやすくなります。
RC造の陸屋根のままでは雨漏りを防ぐために、数年おきに防水修理工事が必要となります。瓦であれば、傷んだ部分を交換すればよく、修復工事もしやすいという長所があります。瓦屋根は断熱効果も高いため、内陸性気候で寒暖差の激しい群馬県の気候にも有効です。
屋上はありませんが、子供たちは広々とした校庭へ一目散へ駆け出すことができます。
